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桜花(なかよし25)回航同行記
期間2007年4月3日〜4月7日   レポーター矢加部
 初めて購入したヨット、船名「桜花」なかよし造船25フィートを、別府より熊本の宇土マリーナへ回航してもらった。せっかくの機会だったので仕事を都合して同行させていただくことにした。桜花はコロンとした印象のかわいいヨット。型は古いが時化には強いのである。たぶん・・・・

4月3日
 その日、朝早くに別府を出港する予定だったが、天候がいま一つ。風も強い。今回、回航をお願いした西山さんたちと近くのファミレスで朝食をとりながら相談。店を出てみるといくぶん回復しているようだったので、予定より遅めの出港。とにかく寒い。振り返ってみると由布岳には雪。寒いはずだ。港を出てジブを開こうとするがうまくいかない。この際だから引き返して手直し。気を取り直して再出港。ジブを展開して機走。波は少々あるがなかなか快調。しかし、だんだんと風に対して真上りになりスプレーを絶え間なく浴びるようになる。寒い上にずぶ濡れで、すっかり無口になったところで最初の寄港地姫島に到着。この日のハイライトは何といってもここでの食事だ。西山さんおすすめのお店で、車エビのフライ定食をいただく。さすがに車エビの養殖が盛んなだけあって、注文があってから生きたエビを仕込む念の入れよう。頭の固い殻だけをとって味噌の部分は残し、尻尾まで全部食べられるのは新鮮だからこそ。プリプリのうまみが詰まった素晴らしい味わい。生ビールも最高だ。おつまみに注文した小エビのから揚げもお勧め。食べとくべき。

     この雄姿・・・ 雪の鶴見岳山頂             姫島港

4月4日
 朝から西山さんの「今日は荒れるよ」の情報あり。しばらく悩むが出港。案の定港を出る広がっていた。まるでカーテンのように海から空まで雲がそそり立っている。帯のように左右いっぱいに広がるそれは寒冷前線だった。前線という名にふさわしい「天気図を見ているような」風景だった。

 役目を終えた水は雨となって母なる海へと降り注ぐ。風は気圧の高いところから低いところへと流れてバランスをとる。暖かい空気と冷たい空気は折り合いがつかずに身を捩る。

水の縦弦と風の横弦が触れあう聖なる神の領域。桜花はエンジンの出力を上げ波を切りあがる。

 ベアマストの桜花はそれでも波を上がる途中で強烈なブローに横倒しになる。舵を戻そうとオートヘルムは絶叫のような警告音を鳴らしている。リギンが風を切る音はすでに唸るような轟音になっている。波を切りあがろうとするたびにブローで倒れ、左右に交互に横倒しになる。ときおり険悪な三角波に船首が浮き上がりドシンと落ちる。大きくヒールするたびに横眼でヒール計を覗くが、50度までしか測れないヒール計はすでに振りきれている。サイドデッキを波が洗う。桜花はそのたびに驚くようなねばり腰で「一生懸命」な感じで姿勢を戻す。がんばれ!桜花!

 そのとき最悪のタイミングでエンジン停止。あっというまに漂流し始めた。ブローに船首を押されて横向きのまま波を受け、激しくローリング。ベテランの西山さんは燃料系統の異常を疑う。あまりのヒールで燃料が揺れてエアを噛んだらしい。落ち着いて燃料補充。荒れ狂う海の中、大きな背中の西山さんがちいさなペコペットをピコピコとにぎっているのはなんともいえないコントラストだった。さすがの落ち着きようだ。それを見て、「ああ、この程度のことはときどきあることなのだろう」とすっかり思い込み、僕も落ち着いていられた。ヨットも頑張っている。僕らも頑張っている。大丈夫切り抜けられる。

 そのうち風が弱まり、雨が止んだかと思うと嘘のように太陽の光が差してきた。本当に唐突な感じで前線を抜けた。ご褒美のように陽の光があたたかい。「抜けましたね!」の僕の言葉に「まだまだ」と西山さん。前を見ると第二陣が・・・以下前述のエンジン停止以外の部分繰り返し・・・・

ようやく嵐を抜けた僕たちは関門手前の田の浦漁港に舫いをとった。港内は嘘のように静かだ。岸壁のため僕は船から降りられないので西山さんに近くのコンビニでお弁当を買ってきていただいた。暖かい食事。冷たいビール。ほっと一息でふたりとも笑顔が出る。

「がんばったな!」






姫島 西山氏
  





   田ノ浦

4月5日
 昨日の嵐が嘘のような素晴らしい天気。潮の時間を見計らって関門海峡を通過。連れ潮に乗って滑るように走る。関門橋の付近では桜が満開。青い海、若葉の緑、桜の薄紅。素晴らしい春の一日だ。北九州の海は人工的なビルや工場と流れの強い美しい海との対比が心を奪う独特の風景だ。関門橋を通過するときに橋の真下をカメラでパチリ。船からじゃないと絶対に撮れないアングルだ。心配していた玄界灘は波は少々残っているものの穏やかな雰囲気。遠くに博多の風景を望みながら順調に距離を稼ぐ。今日はこのまま夜間航行で平戸を目指す。途中、燃料補給のため筑前大島へ寄港。燃料を買足し、食堂でちゃんぽん。

遅いお昼ごはんをいただいて、すぐに出港。

 やがて太陽が沈んでいく。航海灯をつける。鏡のように静かな長崎の海を桜花はゆっくりと進んでいる。やがて満天の星空が広がった。月はまだ昇らない。遠くに見える本船の航海灯を見てその向きを判断するトレーニングを受ける。教科書通りには見えないものだ。とくに、向って左へ進んでいく船とこちらと平行に行き違う船は見分けにくかった。まだまだ経験が必要だ。

 そのうちに月が昇ってきた。小さな島影が水面に映る。海面には月へとまっすぐに続く光の道ができている。さながら月の道のようだ。いつしか真上にオリオン座が見える。顔をあげて星を眺める。波が船を揺らす。マストが揺らぐ。桜花のマスト灯がオリオン座へわずかに触れる・・・・すべてのバランスがとれた完璧な寛ぎ

 平戸港は灯標が見えてからが遠い。こちらが追いかけると逃げているかのように感じた。午前1時。平戸港入港。西山さんの知り合いのお店が連絡を受けて店を開けて待っていてくださった。チキンステーキに梅のお茶漬け、冷奴。おいしいビール。長い航海の疲れが抜けていく。西山さんの寄港地での知り合いの多さはそのまま経験の長さと、人柄によるものだと思う。旅の醍醐味の一つはいろいろな人との出会いだろう。楽しい食事とおしゃべりで船に戻ると3時だった。バースへもぐりこんでゆっくり眠る。この日は僕の誕生日だった。西山さんが「この天気はプレゼントだよ」と言ってくださる。この誕生日は一生忘れないことだろう。

4月6日
 少々遅めに目覚める。今日はゆっくりペースで活動の予定。まずはお風呂を借りるべく、いくつか旅館に問い合わせるも、すべて10時からとのこと。とにかく3日お風呂に入っていないので、男二人すでに獣の臭いになっている。時間を待つ間に調子が悪くなったオートヘルムを西山さんがバラして修理に挑む。防水のはずの内部にはずいぶん水が入っていて健闘むなしく致命傷であることがわかる。あの嵐の日のがんばりは忘れない。機械としての寿命は尽きるが、僕の心の中で君は力強くティラーを引き続ける。合掌。

 さて、お風呂の時間。タクシーで近くの海上ホテルへ。なるべく段差のないところを、と西山さんに配慮していただいて、海の見える家族風呂を借りる。久々のお風呂。体も髪も2回ずつ洗う。なんだか体のあちこちが痛い。ゆっくりと体を伸ばして二人ともリラックス。お風呂を出たらお昼前。腹ぺこ二人組は、港の食堂へ向かう。途中僕が「なんだかわからないけど、とにかくチャーハンが食べたいです」というと、なんと西山さんもそうお思っていた、とのこと。全会一致で食堂で焼き飯を頼む。生ビールと焼き飯ですっかり元気になったところで、そろそろ出港。目指すは西海市瀬戸町の港。ここは入港するのが一苦労。なにせあちこちに暗礁がある。フェリーの後をついていけばいいだろうと、進路をとるが途中で魚探のメーターがせりあがってきた。あっという間に2メートル台まで浅くなる。まったくフェリーの航路でさえ信用できない。しかし入ってしまえば波も静かなところで、フェリー乗り場の方々に親切にしていただき、フェリー用の桟橋に停めさせていただいた。バリアフリーの桟橋で二人で買出し。食糧や人間の燃料を調達。帰り道にほか弁であたたかいお弁当を購入。ビールでいただきます。明日は早朝に出向の予定なので、はやめの就寝。

4月7日
 朝3時過ぎに起きだして、早速出港。連れ潮に乗って快調に進む。途中夜明け前、僕がヘルムを取っていると右舷の遠くに、なにか不思議なものが見えだした。「シャンデリアだ・・・」

 美しい光の塊が、まっすぐにこちらにやってくる。近づいてきたのでよく見ると巨大な客船がすべての灯火を灯してやってくるではないか。満艦全飾。その荘厳で凛とした美しさにしばらく見とれるも、なんだか衝突コースのようだ。入港前のお化粧を済ませた貴婦人に余計な心配をさせるのも野暮だろうと、早めに右へ避ける。その動作でキャビンの西山さんもすぐにでてきて、カメラでパチリ。僕もカメラに何とかおさめた。外国船だろうか、夜明け前の客船を間近で眺める機会に恵まれるとは思ってもみなかった。好運だ。

 この日は今回の日程の中でもっとも天気もよく暖かい一日だった。風もよくなったのでエンジンを止め初めてのセーリング。メインのシートの取り回しや扱いをトレーニングしていただく。西山さんが言うとおり、エンジンをかけているヨットとセーリングしているヨットは別物だ。ただ波の音だけがするなか、滑るように桜花が走る。僕はこのヨットが大好きになっていることに気がつく。大事にするよ。一緒に楽しもう。

 快調に進んできたが長崎と熊本を隔てる早崎瀬戸で逆潮になり、ガクンと艇速が落ちる。根気よくヘルムをとっていると、とうとう目的地の宇土マリーナの大きなクレーンが見えてきた。これから僕が楽しむであろう有明海をゆっくり眺める。雲仙の雄大な眺め。天草の島々。干潟が多いので水深に注意が必要だけど、家族や友人とここで楽しませてもらおう。

 さて、ここからが長いこと。なかなか近づかない。途中迎えに来ている友人や家族から、こちらが見えていると連絡があったが、結局到着したのは午後6時。真っ黒に日焼けした僕の顔に驚きながらも、家族や友人が笑顔で出迎えてくれる。荷物をかたずけてからマリーナのレストランで家族と西山さんで楽しく夕食。大きな窓から自分のヨットが見える。普通の暮らしと一般的な収入の僕が、こんな素晴らしい時間を得られるとは思ってもみなかった。普段の暮らしの中から、少しだけ無駄を省いてそのお金を集中すれば、決して無理せずにヨットを楽しむことができる。もちろん多くの方々のアドバイスや善意に支えられて、この瞬間を迎えていることを忘れないようにしなければならない。

 事故の無いように慎重に楽しもう。時化の恐ろしさは身にしみてわかった。夜間航行の危険や、難しさも少しは体験できた。いろいろなファクターを幅広く体験できた5日間であった。ひたすら僕に付き合っていただいた西山さんに敬意を表して、このレポートの筆を擱きたい。

番外編                 シェフ西山のヨットグルメ      レポーター 矢加部

走っているヨットの上ではほとんど料理はできないものだ、と思い知ったわけだが、だからこそ普段は絶対に買わないのだけれどヨットの上で食べると抜群にうまい食べ物がある。みなさんにもそれはあるのだろうが、ここではシェフ西山おすすめの食べ物を紹介。揺れるヨットのコクピットで食べるためには、片手で食べられる、口の中の水分を奪わない、甘いか塩がきいているかどちらか味の濃いもの、という条件が付く。まずはチョコレート。これなど普段絶対に食べない。しかし、疲れ果ててヘルムをとっているときに一粒のチョコレートのうまいこと。カロリーも高いので力がでる。お勧め。次はなんといっても魚肉ソーセージだ。あの赤いフィルムに郷愁をそそられるが現実の世界ではもはや口にする機会はほとんどない。だがヨットの上では片手で食べられるし常温で保管が可能だし、なんといっても適度な塩分が心地よい。びっくりするほどうまく感じた。この関連の食品としてはハムもよかった。常備するべし。カップメンはお湯の量に注意だ。少なめのお湯で、出来上がる頃にはあまりスープがないくらいが危なくないようだ。これも「かやく」やスープなど作業が多いものはゴミも増えるし感心しない。オーソドックスにカップヌードルがいいようだ。ちなみにお湯をいれるだけのシチューがあるが、あれはいい。凍える手をカップで温めながら口をやけどしつつ食べたあの味は忘れられない。そのほかでは、甘栗を剥いてある商品があるが、これもおいしかった。片手で食べられるのがポイントだ。

朝食だけは必ずコーヒーを淹れた。出港前のひと時、おちついてコーヒーを飲みながら菓子パンを食べていた。練乳パンがお勧め。コーヒーと合いますな。食べとくべき。コーヒーといえば、凍える航海が終わって港についてから、まずは体を暖めようとシェフ西山がコーヒーにバーボンをいれて「カフェロワイヤル」なるものを作ってくれた。はっきりいってこれは最高傑作だった。コーヒーの苦みと暖かさ、バーボンの香りとコク。なにはともあれ飲んどくべき。疑うべからず。

とにかく、西山さんの経験に基づく食品買出しには感動すら覚えた。「これ食べてごらん、うまいから」と差し出されるすべてのものがうまかった。この手のアイデアは出し合ってみると案外楽しいかもしれない。僕もなにか考えよう。シェフ西山、ごちそうさまでした。

番外編 2               なかよし25 『桜 花』        レポーター 大須賀

矢ヶ部氏は昨年開催された『ヨットエイド九州』(代表 須藤氏)試乗会に参加したメンバー
連絡を受けたのは氏が小型船舶免許の受験前
免許試験艇は九州では唯一福岡にあり おそらく氏が第一号ではなかろうか
オーダーを受けた艇は大阪に有り 回航担当の西山君と陸路乗り入れ艇を受け取り シングルで出港 途中明石海峡付近でエンジントラブル
的形の西尾氏の曳航で緊急入港 ]ボートのメカに修理依頼
明らかにミキシングエルボの目詰まりの兆候だが エンジンを下ろしてオーバーホールの所見
修理依頼をキャンセルし急遽 部品を調達し再度山陽道を走る
翌朝早く到着しエルボを確認 完璧な目詰まりで水さえ通らない状態
現地作業時間30分 終了後 駅前のドトールでモーニングサービス
冬の回航は前線との勝負 次の前線の通過までに距離を稼ぐ
10時出港した彼を見送り 別府への帰路に着く
丁寧に使われたYA−8 スタンチューブの点検
キールボルトの点検 チェーンプレートの点検
別府に無事到着した艇を天草への回航に備えて点検整備
下肢不自由の矢加部氏がコックピットでの操船をイージーにするために
レイアウトの変更 コックピットからキャビンへ さらにバウのヘッドに移動する場合により安全な手すりの取り付け等 実際に本人乗艇で確認
キャビン入口 板のサイズアップ ステンサポートパイプ設置
バルクヘッド サポートパイプ トイレ サポートパイプ
GPSの移設 レイジー取り付け
作業が完了し 春休みを利用して回航
出港予定時間には西の強風 初クルージングの氏にはかなりリスキー
天草までのフルレグをこなせるのか?
「行ける所まで走る」10時過ぎ出港 天草までの長い過酷な回航の始まり
西山氏 私  矢加部氏 長い二人旅の始まり
西九州方面のヨットマンの皆さん!
『桜 花』をよろしくお願いします。
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